鳥を記す

はじめまして。さいたま市とその周辺で、野鳥を中心とした自然観察を楽しんでいます。おもに鳥についてのブログになると思いますが、鳥の写真はありません。風景と植物だけです。

午後の怪しいひととき

  ヤマシギは、かなりの奇面である。目がついている場所が上過ぎるのだ。そのため、ひょうきんで間抜け、「化け物」・「妖怪」のテイストも感じさせる「ツッコミどころ満載」の鳥である。目が、もう少し違う場所についていたら、意外に「かっこいい鳥」だったかもしれないが、これほど「面白い鳥」ではなかっただろう。

 そのヤマシギを、じっくりと観察する機会に恵まれた。2月の、ある曇りがちな午後。「すぐ近くで見られる」という話を聞き、埼玉県東部の公園に出かけた。公園は未完成で、一部が立入り禁止である。ヤマシギが現れるのは立入り禁止地帯の疎林であった。かなり前から滞在しているようだが、人が入れないからこそ安心して長居しているのだろう。

 びっしりと落ち葉が散り敷いた林床に、のた~、とヤマシギが現れた。複雑怪奇な模様で覆われている。うつむき加減に、のた~、のた~と移動する。動作がことごとくスローモーで、どことなく妖怪っぽい。長いくちばしで地面を何度か突いた後、くちばしを持ち上げると、先に黒い小さな塊が挟まっている。何かの蛹だろうか? この日のメニューはこの塊ばかりであった。

 そのうち妙な動きを始めた。足踏みしながら体全体をゆする。上下、前後、左右に、ゆ~らゆ~ら、うごめく。なまめかしい、ともいえる。ベリーダンスを超スローモーションで見たら、こんな感じかもしれない。しかし大きな違いがある。ベリーダンスのダンサーたちはたいてい笑顔なのだ。そのためセクシーではあっても明るく健康的で、怪しさはない。一方、ヤマシギは無表情な、あの奇面でうごめく。なまめかしさよりも怪しさが勝る。ダンスというよりは呪いの儀式、悪魔召喚の儀式。足踏みしている地面には、魔法陣でも書いてあるんじゃないか? 

 さらに恐ろしいことを発見した。正面からみると、頭頂部の太い横縞模様が、なんともイモムシっぽいのだ。それもかなり大型のイモムシ。異様なほど上についている目がまさにイモムシの“目の模様”になったいる。イモムシ嫌いの私は、背中がゾワゾワしてきた。これを見続けるのは、もはや罰ゲームだ。

 それなのに何故か目を離せない。悪魔的な動き、異様な目、複雑怪奇な模様…うごめき続けるヤマシギの全てに釘付けになっていた。イモムシっぽささえ魅力に感じられ、結局、ヤツが疎林の奥に姿を隠すまで、見続けてしまったのであった。