鳥を記す

はじめまして。さいたま市とその周辺で、野鳥を中心とした自然観察を楽しんでいます。おもに鳥についてのブログになると思いますが、鳥の写真はありません。風景と植物だけです。

カモの声

  鳥好きの間でも、カモの声はあまり話題にならないように思う。なんとなく、どのカモもグワグワとかクワクワとか、アヒルのような声を出しているようで、興味を持つ人が少ないのだろう。その中にあって、ヒドリガモは異色である。「ピューン」という、口笛のような、よく通る高い声。知らない人はまず、カモの声とは思わないだろう。厳冬期の早朝、池を覆う靄を切り裂くように、この声が響いてくると、身が引き締まるような思いがする。唱歌「冬景色」に歌われる「水鳥の声」はヒドリガモの声のような気もする。私は好きである。ファンは他にもいると思う。

 マイフィールドの公園の池に、今年もカモたちが渡って来ている。この池でヒドリガモは2番目に多い(最も多いのはオナガガモ)。久々にあの「ピューン」が聞けると思ったら、意外に静かである。全く鳴かないわけではなく、時々、思い出したようにピューンと聞こえて来るが、それっきりである。ピューンピューンと口笛が飛び交うような状況は、もっと季節が進んでからなのだろう。この声はペアの形成と関係があるのかもしれない。

 しかし、新たな発見があった。ご多分にもれず、この池にもカモに給餌する人々がいる。投げられたパンの一片が着水するとまず、オナガガモが突進、ヒドリガモが後に続き、混沌とした状態になる。そのカオスの中から「ブゥー」という低い声が聞こえる。声の主は、目の前にいるヒドリガモのメスだった。くちばしを半開きにして「ブゥー」と言っている。その声は、我が家の猫の声にそっくりだ。敷地内に野良猫が侵入すると、我が家の3匹の中で最も気が強い“かわら”が、この声を出す。招かれざる客への怒りと興奮が極まって発する声である。尻尾の毛も逆立てるので、ほとんどタヌキの尻尾になる。このヒドリガモもかなり興奮した様子で、頭部の羽毛を逆立て、ブゥーブゥーと鳴きながら、近くの仲間をつつきまわす。横から来たオナガガモもつつく。さらに「ワゥワゥワゥ」と、くぐもった声も出す。この声にも聞き覚えがある。昔、飼っていた犬がこんなふうに鳴いた。無駄吠えをして叱られ、すごすごと犬小屋へ引き上げる時、いかにも不満そうに、口の中で「ワゥワゥワゥ」と言っていた。かたや鳥綱、かたや哺乳綱。分類上は大きく離れているのに、興奮したり不機嫌だったりすると同じような声を出すとは…。

 これらの声は、この個体だけが出すとは思えない。おそらく他のヒドリガモも、状況によってはブゥーブゥー、ワゥワゥと鳴くのだろう。「ピューン」が異性を呼ぶための小鳥の「さえずり」に相当するとしたら、これらの声は「地鳴き」的なものかもしれない。耳をすませば、他のカモもいろいろな声を出しているかもしれない。冬の楽しみが増えた。