鳥を記す

はじめまして。さいたま市とその周辺で、野鳥を中心とした自然観察を楽しんでいます。おもに鳥についてのブログになると思いますが、鳥の写真はありません。風景と植物だけです。

カラス語あれこれ

 「ハシブトガラスはカーカーと澄んだ声、ハシボソガラスはガーガーと濁った声」 鳥見のビギナーだった頃、こんなふうに習いました。あれからX十年、この“法則”には例外がある、あるなんてものではない、けっこう多い、ということが分かってきました。ハシブトガラス(以下、ブトと略記)も濁った声で鳴くんです。ただ、ハシボソガラス(以下、ボソと略記)の濁り声とはちょっと違います。濁点つきの「あ」というのかな? よくマンガでありますね。ケンカを売られたヤンキーのお兄さんが「あー?もういっぺん言ってみろっ」なんてときに「あ」に濁点がついている。そういう声です。一方、ボソの濁り声は、風邪をひいた人のような、いわゆる“しゃがれ声”。もちろん、これにも例外があって、ほんとに難しいのです。

 

 探鳥会の最後に、観察した鳥を確認するとき(業界用語では「鳥合わせ」という)、リーダーが「カラスは両方いましたか?」と聞くと、参加者は打てば響くように「ハーイ」という。そして「カーカーじゃない声も聞こえたよね」とか話している。「おいっ! それでいいのか? 声じゃ判定つかないぞ! ちゃんと姿も確認しているんかいっ!?(濁点つきで)あ~?」と物言いをつけたいけれど、気弱な私にはムリ。言いたいことが言えずモヤモヤしたまま、家路につくことが時々あります。

 

 ところで私は、ブトの濁り声の意味が分かったような気がしたことがあります。初夏のある日、マイフィールドの雑木林を徘徊していた時。濁点つきの「あ~」の声が降ってきました。頭上2、3メートルの枝に1羽のハシブトガラス。枝の付け根にもう1羽。こっちは口角が赤っぽい幼鳥。親子でしょう。親鳥は明らかに私を睨みつけています。攻撃してくるかな?と思ったので、その場で立ちどまりました。またひと声「あ~」。そして、またひと声鳴くと、雑木林の奥か2羽のブトが飛んできて、近くの木にとまりました。これも1羽は成鳥、もう1羽は子供。最初に鳴いたカラスが再び「あ~」。カラスたちから目をそむけ、その場を離れました。その後も「あ~」が3,4回聞こえてきましたが、やがて静かになりました。攻撃は受けませんでした。

 おそらく、この4羽は家族なのでしょう。そして濁点つきの「あ~」は、「怪しい奴が来たぞ!みんなお父さん(お母さん?)のところに集まっておいで」という意味だったのではないでしょうか? さらに私に向けては「痛い目に遭いたくなかったら立ち去れ、コノヤロー、あ~?」というメッセージを発していたのでしょう。<カラス語>が一つ、分かったような気がして嬉しくなりました。

 

 ブトの典型的な「カーカー」あるいは濁点のない澄んだ「アーアー」の意味はさっぱりわかりませんが、仲間と何らかの会話をしているようです。というのは1羽が「カーカー」と鳴くと、返事が返ってくることが多いからです。すぐ近くにいるのが答えたり、ちょっと間があってから遠くの方で答えたり。いくら鳴いても返事が返って来ない時は、鳴いている子がちょっと心配になりますが、返事が返ってくると、「一人じゃないんだね」と、ほっとします。

 

 ブトは他にも色々な鳴き方をします。まるで『魔笛』の「パパゲーノの歌」でも歌っているように「パ、パ、パ、パ、パ」と鳴き続けていることもありました。閉じたくちばしを一気に開くことで、破裂音を出しているのかもしれません。最近は「アッ、アウッ、アッ、アウッ、」と繰り返し鳴いているのを聞きました。この「ア」はすべて、濁点なしの澄んだ声です。最初の「アッ」は、「クァッ」とも聞こえる声で、喉の奥の方で声を出しているような感じでした。次の「アウッ」の前に一瞬くちばしを閉じるので、かすかに、パチッという音が入ります。ちなみにパパゲーノにもアッ、アウッ、にも返事はありませんでした。もしかしたら一人で、いろいろな鳴き方を楽しんでいるのかもしれません。

 

 澄んだ声を出すボソも、何回か観察したことがあります。面白かったのは、昔住んでいたマンションのゴミ集積場でのこと。十数羽集まってきたカラスは1羽を除いてすべてブト。お互いにカーカー鳴き合っていました。その中で、たった1羽のボソが、やはり「カーカー」と鳴いていました。このボソは特にいじめられている様子はありませんでしたが、完全に仲間扱いされているわけでもなく、集団の端の方にいました。同じように鳴くことによって攻撃を防いでいたのか? それとも単なる物まねだったのか? ただ、鳴くときの姿勢はボソそのもの。お辞儀をしながら「カーカー、カーカー」と鳴き続けていたのでした。