鳥を記す

はじめまして。さいたま市とその周辺で、野鳥を中心とした自然観察を楽しんでいます。おもに鳥についてのブログになると思いますが、鳥の写真はありません。風景と植物だけです。

分業体制

 キジやオオヨシキリは一夫多妻であるそうだ。探鳥会などで、これらの鳥が現れると「うらやましいねぇ、○○さん、イヒヒ…」という人がいて、○○さんは「冗談じゃねぇよ、一人だって大変なんだ。何人もいたら死んじまう」。探鳥会の「あるある」風景である。

 

 広大な霊園の一角に、25メートルのプールほどの湿地があり、周囲のアシ原にオオヨシキリが来る。何日かさえずりが聞こえたと思ったら、いなくなってしまうことが多いが、営巣した年もある。そのときは墓地の管理担当者にお願いして、ヒナが巣立つまでアシ原や周辺の草刈りを延期していただいた。

 

 今年はどうだろうかと、5月末のある日、出かけてみた。賑やかなさえずりは聞こえない。いないのか、いても鳴かないのか?周りをブラブラしていると「ケッ」「ギョギョッ」と聞こえてきた。さえずりとは言えない、ワンフレーズだけの叫び。姿を探すが、アシ原の中にいるのか見つからない。「ギョッ」と、またひと声。近くの木の枝が揺れて、それらしい鳥が一羽飛び出した。木の上にいたのだ。双眼鏡で後を追ったら、湿地の対岸の木にとまり、また「ケッ」「ケケシ」と短く鳴く。いったい何をしているやら?

 もう一羽、アシ原に出入りしているのがいた。双眼鏡で見ると、白いフワフワしたものをくわえている。アシ原から飛び出し、しばらくして戻ってくる。綿状のものとともに、長い草のようなものをくわえている。巣材のようだ。ちょうど、巣を作っているところだったのだ。

 巣材運びはどうやら2か所で行われていたようだ。同じ鳥が2か所に運んでいたのか、違う鳥なのか、そこまではわからなかった。一方、木の上にいた個体は、少なくとも観察していた30分ほどの間は、巣材運びには一度も加わっていない。ずっと木から木へウロウロし、時々短く鳴くという行動を繰り返していた。

 

 調べてみたところ、オオヨシキリは主に♀が巣作りをするということである。木の上

にいたのは♂なのだろう。♂は縄張り全体の見張り担当、♀は巣作り担当、と完全に分業体制であるようだ。その様子を、実際に観察できたわけである。

 ところでオオヨシキリの分業体制は…せっせと巣材を運ぶ奥さんたちの様子を、旦那は鼻歌まじりに高みの見物。時々、「オラオラ、しっかり運べ!」「1号も2号もどっちもガンバレ!」などと言いたい放題…というように見えなくもない。鳥のこととはいえ、女性にとっては相当腹立たしい光景であろう。しかし冒頭の○○さん始め多くの男性は「次に生まれ変わるなら、オオヨシキリの♂!」と思うかもしれない。

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オオヨシキリが巣作りをしていた湿地のチガヤ。

巣材にしているのは、この白い穂であろう。

飛島探鳥旅行<4>

飛島で鳥を楽しむためには

 

 当然のことながら、鳥のいるところへ行かなくてはならない。これが意外とたいへんである。平坦な舳倉島との大きな違いで、鳥が多い島の中心部へ行くには、急な石段を登る。島の人にとっては津波からの避難路である。我々の宿からいちばん近い避難路の石段は、282段あった。体力のある人や普段からよく動いている人にはどうってことないが、機材や体が重い人は辛そうだ。ただ、1回登ってしまえば、上にはトイレもあるから、飲み物と昼食さえ持っていれば一日中過ごせる。

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   <島の中心部の畑。珍鳥のポイント。>

 

 

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 <島の東南部の「巨木の森」。対馬海流(暖流)のおかげでタブノキが多い、この林園でヤツガシラに会えた。>

 

 石段を使わずに行ける鳥のポイントもある。一つは島の東側、飛島小中学校の校庭である。ヒタキ類、アトリ類、ホオジロ類、ツグミ類。いつ行っても何かしらいる。もう一つは、島の西側の館岩(たていわ)。ウミネコのコロニーがあり、交尾をするものからすでに抱卵中のものまで、さまざまなステージのウミネコを観察できる。ハヤブサも姿を現す。これらの行きやすいポイントは、時間が限られる早朝探鳥にちょうどよかった。 

 なお小中学校の校庭からも館岩からも、緩やかな坂道が島の中央部へ続いている。石段登りを避けたい時は、これらの道を使うが、緩やかな分、距離が長い。<短時間で急>or <緩やかだけれど長い>、どちらがマシか? 島には貸自転車もあり、利用している鳥見人もけっこういた。しかし坂道ではみんな、暑そうな辛そうな顔をして自転車を押していた。

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   <館岩>

 

島の宿

 宿が2軒しかない舳倉島と違い、飛島には民宿も旅館もたくさんある、と思っていた。しかし、意外とそうでもないらしい。観光資料のリストに名前を連ねていても、実際は休業中が多いという。やはり宿は、早めに確保しておいたほうがよさそうだ。

 食事は当然、魚介類、海藻など海のもの。特にイカがよく出た。海藻もいろいろ。離島では海藻が野菜替わりになる。昼食は毎回、おにぎり弁当を作ってもらった。港周辺には食堂もあるが、前述の理由により、一度登ったら夕方まで降りたくなくなるので。

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  <宿の周辺で何度か見かけた猫。みんなに可愛がれれているらしく、

    幸せそうな顔をしている>

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   <花を育てている家が多い。ひっそりと、しかし、あでやかに咲く花々を

      見ながらの散歩も楽しい。>

飛島探鳥旅行<3>

離島の鳥見の面白さ

 5月1日午前10時45分、予定通り飛島に上陸。その後、3日午後3時45分の船で島を離れるまでのあいだ、実によく歩いた。午前5時から7時まで早朝探鳥。8時には出発、宿に帰ると午後6時近い。その間、鳥を訪ねて歩きまわる。歩数計の記録は、1日14306歩、2日20268歩、3日19974歩。1日の消費カロリーは最高2100Kcal。バードウォッチングでダイエットできるのでは、ないだろうか?しかしその分、食べている。というより食べなければ動けない。そういう3日間だった。

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   <島のあちこちで八重桜が満開だった>

 

 3日間で見聞きした鳥は76種。行き帰りの航路や酒田港で見た鳥を加えると80種を超える。これは多いのか少ないのか? 仲間のひとりで、離島の鳥見歴20年以上の大ベテランは「今イチだったな」という。しかし、離島の鳥見歴7年の私にとっては、かなり面白かった。

 

 さいたま市内ではめったに、あるいはほとんど見られない鳥としては、ヤツガシラ、シマゴマ(声だけ)、キマユムシクイ、ムネアカタヒバリ、コホオアカ、キマユホオジロ。ヤツガシラは近距離でじっくり見られた。冠羽もちらっと広げてくれた。長いくちばしでミミズなどを掘り出し、器用に食べていた。その近くに、やはりミミズ好きのトラツグミもいた。

 キマユムシクイは海外のツァーで見ているが、どこで見たか思い出せないぐらい、ちゃんと見ていない。望遠鏡に入れてもらって「はい、これがキマユムシクイ」と教えてもらっても、身につかないらしい。「ああ、これがキマユムシクイなんだ、なるほど」と、キマユムシクイを実感できたのは今回が初めて。キマユホオジロはあちこちで見ることができた。

 

 さいたま市内では多数見られない鳥が当たり前に見られたり、ありえない風景が見られるのも離島の魅力である。たとえばキビタキオオルリやムシクイ類といった夏鳥。渡りの時期には、市内のマイフィールドでも見られるが、数は少ない。シーズン中に1回か2回お目にかかれれば、大満足である。それが、あっちにもこっちにもいる。オオルリ♂が2羽、同じ枝にあたりまえのようにとまっている。離島ならでは、の鳥景色であろう。♂が2羽でバトルにならないのは、疲れ果てているからか?

 家屋と家屋の間の狭い水路で、キビタキがムカデを食っている。木に止まっていないキビタキも、離島ならでは。エゾムシクイとメボソムシクイが、同じようなところを飛び回る。さえずらなくても、時々止まってくれるので、その違いがわかる。ムシクイ類をじっくり観察できるのは、離島探鳥の大きなメリットの一つである。ムシクイ苦手な私にとっては、ムシクイ観察目的だけでも、離島に渡る価値は十分にあると思っている。

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     <こんな水路にも鳥がいる>

 

 ツグミ類がいろいろ見られるのも楽しい。ツグミアカハラシロハラ、マミチャジナイ、クロツグミが同じキヅタに集まって、食えや歌えやのお祭り騒ぎ。秋の戸隠でも、ここまで揃うことは珍しいだろう。このお祭り騒ぎを聞いていると、ツグミの「クエッ、クワッ」という地鳴きだけが特徴的で、赤・白・茶・黒の地鳴きは、どれが何やらまったくわからない。マイフィールドで地鳴きを聞いて「今のはシロハラ」「これはアカハラ」などと、分かったつもりになっていたのが恥ずかしい。普段の鳥見の態度を反省させられるのも、鳥がうじゃうじゃいる離島ならでは、かもしれない<続く>

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<道標にはカタカナや数字が記されているので

待ち合わせや鳥情報の交換に便利>

飛島探鳥旅行<2>

海を渡る小鳥1羽

 定期船「とびしま」は217トン。粟島舳倉島の連絡船より少し大きい。船に乗り込むと早速アナウンスがあった。外海に出ると波が1.5mあり、揺れが予想されるので気をつけてほしい、とのこと。1.5mの波は、これまでの私の基準では「波はほとんどない」である。船に弱い知人のA氏がニコニコしていられる波である。何故、わざわざアナウンスで注意するのだろう? 

 酒田港を出ると、たしかに揺れる。粟島でいちばん揺れたときと同じぐらいか? あの時の波は2mかそれ以上で、出航するか否かギリギリまで決まらなかった。そのときより波も低く、船も大きいのに、しかも揺れに強い双胴船なのに、何故? 

 後日、調べたところ、飛島は対馬海流の中にあるので、その影響で揺れるらしい(Wikipediaによる)。1.5mの波といっても、場所によって違うのだ。さらに、この前日はもっと波が高く、船内で転倒して怪我をする人が続出したらしい。それ故のアナウンスだったのだ。 

 その時はそんなことは知らず、アナウンスに従って、おとなしく座席で鳥を見ていた。オオミズナギドリがパラパラ飛ぶだけ。なんか物足りない。やはり外から見なくては。双眼鏡を持って甲板に上がる。雨は止んでいたが風が強く、寒い。不機嫌そうな海面を見回すが、やはり少数のオオミズナギドリ、時々ウミネコ、それだけ。そこへ、誰かの「小鳥!」の声。船の上を一羽の小鳥が飛んでいる。ツグミかと思ったが、どうも違う。波状飛行。風の中で難儀している。写真を撮った人に見せてもらったら、アトリであった。

 このように時々、たった1羽で海を渡っている小鳥を見る。そのたびに、不安な気持ちに駆られる。広大な海にあって、あまりにも小さくあまりにも弱々しい。無事に目的地へ着けるのだろうか。心配なんてものではない、心が痛む。

 「鳥は自由でいいな、鳥になりたいな」などと言うのは、鳥を知らない人である。鳥は、ちっとも自由ではない。生き残るための過酷な戦いから逃れられない。海を渡る小鳥なんか見てしまうと、ますます鳥にはなりたくない。どうしても鳥にならなければならないなら、ハシブトガラスがいい。渡る必要がなくて、図太くて逞しくて、いつも仲間で群れていて…

 そんなことを考えているうちに、寒さが浸みてきたので、船室に降りた。最後まで甲板で粘っていた仲間が「あの後、アトリが群れで飛んでいったよ」という。それを聞いて、少しほっとした。旅の仲間がいれば…(続く)

 

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帰りの航路から見た飛島 ほとんど平坦な感じに見えるが…

 

飛島探鳥旅行<1>

 2016年5月1日から5月3日、鳥仲間4名と山形県の飛島へ行ってきた。ここでは、鳥以外のことも、あれこれ書いておく。次回は物忘れがひどくなっているかもしれないので、自分のための備忘録として。また、これが、飛島にこれから行く方に少しでも参考になれば嬉しく思う。

 

酒田港にて 

 計画段階では、朝イチの電車で酒田まで行き、午後の船で島へ渡ることを提案したが、却下された。初日から徹底的に鳥を見たいと言われた。そこで車で前夜発、朝の便で島へ行くことになった。

 4月30日午後8時ごろ、久喜インターから東北自動車道へ。約5時間後、5月1日午前1時少し過ぎに、酒田港に到着。ゴールデンウィークでも、この時間帯は渋滞知らずである。港の駐車場(無料)に車を停め、車内で仮眠をとりつつ夜明けを待つのだが…ここからが問題だ。

 この季節、車の中でじっとしていると、ひじょうに寒い。持参した防寒着をすべて身につけ、膝掛けとジャケットにくるまる。はたして眠れるか? そうだ、寝る前にトイレに行っておこう…と思ったら、港のトイレは、というより、港の建物そのものが閉まっている。街中に戻り、コンビニを探す。トイレのついでに温かい飲み物を購入し、港へ。車の中で目を閉じていたが、眠ったのかどうか判然としない。 

 あたりが明るくなってきた。外は雨。どこかでイソヒヨドリがさえずっている。午前6時ごろ、港の建物が一部開いた。車を降り、ヒマつぶしの場所を建物2階の食事処「海鮮どんや とびしま」前のスペースに移す。

 ここの食事も今回の楽しみの一つだった。海鮮丼が美味しい、と聞いていた。しかも開店が午前7時で、これも嬉しい。気がつくと、開店を待つ行列が階段の下まで続いている。1時間前からスタンバイしている私達が行列のトップで、TV「いきなり黄金伝説」の“ナラビニスト”U字工事の気分を味わえた。

 さて、「とびしま」の朝食だが、この時間帯は海鮮丼はない。朝定食(おかずは焼き魚と煮物、550円+税)の他、丼物が2種。先着順で温泉卵のサービス付き。他に刺身などの一品料理があり、プラス350円程でライスと味噌汁をつけられる。味噌汁は郷土料理の「どんがら汁」で、鱈のアラがたっぷり入っている。小骨が多くて食べるのがたいへんだが、美味しい。先着順で、なくなり次第、普通の味噌汁になる。開店後30分で、行列はすでに50人ぐらい。長野から来たという隣席のご夫婦は、前回は混んでいたので諦め、今回はリベンジ、と言っていた。

 体が温まったところで、またヒマつぶし。ウミネコ、ミサゴを眺めながら、ひたすら船の出発時刻を待つ。(続く)

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「海鮮どんや とびしま」の1階では、魚やおみやげを売っている。

そういえば…

 ここのところ、マイフィールドでシメの姿を見かけていない。いつ頃からいないのかフィールドノートを調べたら、3月12日までは頻繁に記録されている。それ以降、出て来ない。ツグミはまだ、たくさんいる。一時期よりも増えた気さえする。ジョウビタキもいる。シメだけが消えてしまった。

 シメが渡るのは、こんなに早かっただろうか? 毎年のように、ゴールデンウィーク間近の眩しいほどの新緑の森で、嘴が鉛色になったシメを見ているはずだが…今年は何か異変が? と思って昨年のフィールドノートを引っぱり出してきた。

 なんだ、昨年も同じだった。3月後半には、シメの記録がないのである。そして4月1日には、再びシメが現れている。「シメが次から次にやってくる」と自分で書いたコメントを読んで、ようやくその時の記憶がよみがえってきた。さらに4月17日には「シメ多数。嘴が鉛色」と書いてある。やはり、新緑の森で、嘴が鉛色のシメを見ていた。

 この周辺で冬を過ごしたシメは、3月中には北へ飛び立っていたのである。そして、しばらくの空白期間の後、再び現れたのは、もっと南から渡ってきた群れなのだろう。この辺で鳥を見始めて5年になるのに、気がつかなかった。ちゃんと記録していて、よかった。でなければ、おっちょこちょいの私は、「今年はシメに異変が!」などと騒ぎ出していたかもしれない。

 

 人間の感覚や記憶は、あてにならないものだと、こういう時にしみじみ思う。それも仕方がない。すべての鳥に注目して生活しているわけではないのだから。そうだ、去年の今頃は、「レンジャクがたくさん来ている、しかも2色!」と大騒ぎだった。頭の中は、レンジャクをいかにしてゲットするかで一杯で、シメが減ったかどうかなんて気付く余裕がなかった。

 こういうことがあるから、「いつ・どこに・何が・どれぐらいいたか」という記録は大切である。蓄積された記録から、生き物たちの声が聞こえてくることがあるかもしれない。

ひとこと付け加えます

 昨日(2016年2月25日)更新した当ブログについて、ひとこと。公園の立入禁止領域にいるヤマシギについて記したが、どこから観察したかには触れていなかった。だから、立入禁止の場所に入り込んで観察したのか、と思われたかもしれない。

 「安心してください、入ってませんよ」である。立入禁止の境界にはロープやネットが張り巡らされている。その外側からの観察である。不愉快な思いをされた方にお詫び申し上げます。外側からでも十分、観察も撮影もでき、ギャラリーはみなマナーを守って撮影・観察している。ロープを越えようとする不届き者が現れたら、ブーイングの嵐が起こるであろう。

 以上のコメントを書かなければ、と思ったのは、北海道・美瑛の「哲学の木」が所有者により伐採されたというTVニュースを見たからである。私有地に無断で立ち入る輩が後を絶たないので、決断したという。

 同じような話は、あちこちで聞く。「十万羽のアトリ」でにぎわう栃木県の某所も、先日、パトカーの出動騒ぎになったそうだ。アトリ見物に来た人の迷惑駐車に怒った人が通報したのだ。

 どんなに見たい鳥がいても、見たい景色があっても、入ってはいけないところに、入ってはいけない。停めてはいけないところに、停めてはいけない。